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インタビュー課題 「鉄西まちづくりセンター所長 米澤浩昭さんへのインタビュー」

2010年8月16日 久慈桃子

インタビュアー:久慈桃子、吉山菜々美

インタビュー実施日:2010年7月12日

 

 

私は今回「鉄西まちづくりセンター」所長の米澤浩昭さんにインタビューしました。私事ですが、大学一年生のときに「テスク&祭人」というヨサコイサークルに入っていました。その活動の一環として「地域交流」をする、というのがあり、よく鉄西まちづくりセンターを利用させていただいたり、鉄西地区の方たちと交流したりしました。そこで今回「地域交流」をテーマに、米澤さんにインタビューすることにしました。インタビューでは米澤さん個人の「町内会」に対する見解や、「北海道大学のあり方」について伺うことができました。

 

鉄西というのは地区の名前のことで、鉄西地区とは南北は札幌駅北口から北12条、東西は西1丁目から西11丁目に囲まれた地区のことを指します。まちづくりセンターは地区ごとに一つずつ設置されていて札幌市には全部で87個あり、地域の人々のまちづくり活動の拠点となっています。鉄西地区の人口は約5,500人、世帯数は約3,700世帯(平成21年4月1日現在)で、その規模は市内全地区の下から数えたほうが早いほどです。特徴的なのは地区の中に北大が含まれていることで、学生が多いことから、地区人口に占める20歳から24歳の人口の割合が市内で2番目に高いことです[i]。今回お話を伺った、鉄西まちづくりセンター所長の米澤浩昭さん(47歳)は札幌市の職員の方です。札幌市の行政組織図によると、札幌市の各区の下には市民部、税務部、土木部、保健福祉部と4つの部署があり、そのうち市民部の下にあるのが「まちづくりセンター」ということで、「課」と同列であることがわかります。但し普通の札幌市職員と違い、まちづくりセンターの所長は区役所などに出勤してデスクワークを行うのではなく、まちづくりセンターに毎朝出勤し仕事を行っているそうです。

 札幌市の職員(というか一般的な公務員)は2〜3年に1回配置転換がされるということですが、米澤さんもセンターの所長に就いて今年で2年目だそうです。他の部署とは少し趣の違う「所長」という役職に任命されたときにどう感じたかを伺ったところ『どこの部署に行ったとしてもはじめは不安。ただそうは言っても「公務員」という仕事なので、どこに行っても新しい仕事なら速く覚えて、自分の力にして、仕事をしていくというだけだね』とおっしゃっていました。

 

米澤さんの具体的な仕事というのは、センターの運営はもちろん、「鉄西夏祭り」や「北区少年少女スポーツ大会」など地域行事の運営・補佐、子育てサロンやクラブなどの集まりの場所の提供、安全ボランティアや清掃ボランティアといったボランティア活動の統括・補佐、広報の発行などです。また、今年行われる国勢調査に伴って地域の方に調査員を依頼したりと、行政と地域の橋渡し的な面もあるそうです。

 「仕事はお好きですか」と訪ねると、『好きというか……目の前にやることがあれば打ち込む。器用な人間ではなく、一つのことに集中すると他がおろそかになってしまうタイプなので。仕事以外の趣味などはありません。』とおっしゃっていました。

「地域行事の運営」が仕事ということで、後に述べるように大学生とかかわる機会が多い米澤さんですが、そのことについて『学生がこんなことやりたいとか、あんなことやるって言ってきて、無茶なことはなだめつつ色々やっていくときに、やっぱり元気だなーって思う。年をとるとそういうのはだんだん面倒くさいというか・・・(苦笑)。そういった意味ではパワーをもらっています。』と語ってくれました。

一方高齢者の交流活動については『特別に活発というわけではないけど、それなりにやっていると思う。ただ、人間って困ったことがないと動かないんだよね。例えば買い物に行く手段がないだとか・・・。』とおっしゃっていました。そこで、これまでに地域の方から地区についての苦情を言われたり、改善しなくては、と思っていることは何か伺うと、鉄西地区はインフラの面ではかなり整備は行き届いていて、問題は特にないということです。ただし唯一放置自転車、自転車の駐輪マナーについて住民の方から苦情が来ることがあるそうです。

続いて米澤さんの子供時代の町内会の様子を伺ってみました。米澤さんは出身が帯広で、小学校の前半頃には官舎にすんでいたそうです。官舎というのは仕事上で付き合いが深い人が同じ建物に住んでいるので、近所との結びつきは強かったそうです。近所付き合いについて『あくまで私見ですが、一般的に、同じ地域に住んでいるということは同じような所得水準、家庭環境ということ。例えば一軒家が密集している地域ではその家のお母さん同士が子供の学校での付き合いを通して交流を深めていく傾向があると思う。そういう意味で小学校中学校というのは地域交流の軸になりやすい。ただそういう面では鉄西地区というのは、昔から家を持っている世帯と、北大などに通う学生の単身世帯とが混合しているから、自分が積極的に動かないと近所づきあいというのは生まれづらいのかもしれない。その分、余計に活動を活発化して繋がりを作ろうという動きもでてくるのかも。』とお話してくださいました。

 

「鉄西地区には、お祭りなどを開くときに拠点としている大きな公園などはあるか」という質問をきっかけに、とても興味深い考えを聞かせてくれました。地図をみるとわかるように、鉄西地区の中にある公共施設は「北九条小学校」、「さつき公園」、「鉄西会館」、そして、男女共同参画センター・環境プラザ・消費者センター・市民活動サポートセンターが入居している「エルプラザ」と少なく、公園もさつき公園のほかに2つしかありません。しかし、米澤さんは『北大のキャンパスが一つの公園』であると考えているそうです。確かに現在北大は、ジョギングの場や子供の遊び場として多くの市民の方々に利用されています。また、観光客も多くみかけます。しかし一般の家庭からみると北大はあくまで「学校」であり、気軽に入ってお花見をしたり、木陰ですずんだり、ということはなかなかしづらい。北大はせっかく広大なキャンパスと豊かな緑を持っているのだから、もっと地域の人が気軽に訪れられるように大学側もアピールしたらいいのでは、というわけです。今年新しくできた「北大インフォメーションセンター」は、喫茶も併設しており、「中に入りやすい大学」になる一歩として有効に活用されることが期待されます。

 また「大学と地域の交流」のあり方についての考えもお話してくださいました。現在鉄西地区には鉄西連合町内会青年部の「鉄西まちづくり学生推進委員会」という組織があります。この委員会は平成20年4月に青年部に入会したばかりですが、構成主体である「テスク&祭人」と「北海道大学“縁”」は、平成15年より鉄西地区の地域活動に参加しており、地域住民をはじめ北九条小学校とも親交が深いことから、地域に根ざした街づくり活動を行うことを目的とした「鉄西まちづくり学生推進委員会」を平成19年6月に組織しました。そして現在は青年部の一員として、連合町内会役員会などにも出席し、地域活動に貢献しています。しかし、ここで米澤さんが提案するのはこのような「学生と地域との交流」ではなく、『北海道大学と地域の交流』です。『学生さんがマンパワーとして地域に何かしてくれるというのはとてもありがたいこと。だけど、「専門的な学問を学んでいる」学生としての立場から、何か地域に還元してもらえないだろうか』と考えているそうです。代表的なもので言うと大学の「公開講座」というのがありますが、少し専門的過ぎるし、参加する人も限られてくる。そうではなく、もっと広く住民の方と交流しながら学問知識を還元してもらえないだろうか、ということです。例えば生活に役立つ知恵を市民の方に提供する機会を設けるだとか、農学部であれば実験用農場を年に数回市民に開放し収穫祭を開くだとかいったことが挙げられます。『地域住民が知りたいことと大学が持っている知識とをどうマッチングさせるか』が課題になってくるようです。実際に、札幌市が札幌市立大学デザイン学部の学生に、行政ポスターの図案を募集したり、私立大学で地域貢献に関する授業を設けたりという例があります。北海道大学は総合大学であるがゆえに大学単位では身動きが取りづらいという欠点がありますが、学部単位、学科単位、ゼミ単位・・・なんでもいいので「北海道大学」という看板を背負って活動をしてみてほしい、という思いでした。

 

 インタビューを行った数週間後、さつき公園で「鉄西夏祭り」が開催されるということで少し覗いてみました。そこでは「鉄西まちづくり学生推進委員会」など町内会の方々が中心となって出店をだしていて、多くの子供たちで賑わっていました。また、北九条小学校の生徒自らが中心となってお祭りの企画を運営している姿も見られました。公園はそれほど広くないけれど、大人と子供が一挙に集まって楽しむ姿は見ていてとても楽しかったです。近所づきあいが薄いといわれる昨今、とても貴重な交流の機会なんだと思いました。

また、最後に伺った「北海道大学という看板を背負って何ができるのか」という問いかけはとても新鮮でした。お話の中で、『教授にとって大学は「研究の場」、学生とって大学は「生活の場」であり「学びの場」であり「出会いの場」。では地域の人にとっての「北海道大学」ってなんだと思う?』と逆に質問を受けました。せっかく広大な恵まれたキャンパスがあるのだから、ただの「大学」にしておくのはもったいない!という考えのようです。高校までは教育を受ける側として何も考えずに通学していましたが、「大学」というのは先生自体が研究者であるという、「研究の場」としての面もあります。そしてそこで研究されている事柄というのはいずれめぐって社会に還元されていくべき知識のはずです。その一端を学んでいる立場として、普段無意識にお世話になっている地域にお礼ができないか、考えてみてはいかがでしょうか。(4063字)

 

 



[i] http://www.city.sapporo.jp/kitaku/machi/center/tessei.html